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合成生物学と人工知能の連携は、これからの大きなトレンドであることは確かです。本トピック「合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」でも、そういう例をいくつか紹介してきています。 2022年秋に設立されたIntegrated Biosciences社は、合成生物学と人工知能の連携を狙うバイオテクノロジー企業で、次世代治療薬のための細胞ストレス応答を対象にしています。サンフランシスコ・ベイエリアに拠点があります。 その創業者は、Felix WongとMaxwell Wilsonです。 Felix Wongは、2023年度のForbes 30 under 30のHealthcare部門にも選ばれています。 このIntegrated Biosciences社の研究は、合成生物学と人工知能の連携で抗老化作用のある全く新しい化学構造を持つ新規物質を見つけることです。 Integrated Biosciences社は、最近、2つの興味深い論文を発表しています。この2つの論文を見ることで、この会社が行おうとしている合成生物学と人工知能の利用とは何かということが理解できます。 Wong, F. et al. (2023) Discovering small-molecule senolytics with deep neural networks. Nat Aging 3, 734–750 https://doi.org/10.1038/s43587-023-00415-z Batjargal, T. et al. (2023) Optogenetic control of the integrated stress response reveals proportional encoding and the stress memory landscape, Cell Systems https://doi.org/10.1016/j.cels.2023.06.001 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.05.24.493309v1 マウスでは、老化細胞(分裂しない細胞)を選択的に除去(senolysis)することで健康寿命を延ばしたり、化学療法の効果を高めることができることが知られています。「老化細胞を溶かす薬」は老化細胞を選択的に除去できるので有用であるはずです。 老化細胞を標的としたこのような方法は、Senolyticsと言われています。しかし、その臨床応用は、生物学的な知見が乏しく、副作用もあることから、臨床応用には限界がありました。