SynBioポータル

合成生物学(Synthetic Biology)のポータルサイトです

新たな産業革命の中核となる「合成生物学」の最新情報、有用性、可能性、振興策、安全性について、社会との関係も含め議論していきます。

バックナンバー2023年9月

 
スムシって何?と思った方も多いと思います。「スムシ」でネット検索すると、養蜂サイトがたくさんでてきます。スムシは、ミツバチの巣を食い荒らす害虫として知られますが、メイガ上科のガであるハチノスツヅリガ Galleria mellonellaの幼虫のことです。英語では、Waxworm(Wax worm)と呼ばれています。スムシは、プラスチックを食べることで知られています。 プラスチックポリマーであるポリエチレン (PE)、ポリプロピレン (PP)、ポリスチレン (PS)、およびポリ塩化ビニル (PVC) は、世界のプラスチック総生産量の70%を占めています。スムシの唾液の中にプラスチック、特にPEを分解する酵素があることが最近わかってきました。
 
ガラクタDNAによる遺伝子発現の制御
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かつて、生物学者の大野乾は、So much junk DNA in our genomeのなかで、ゲノム上の機能が特定されていないようなDNA領域のことをjunk DNAと言い、以来その呼称がさまざまな機会に使われるようになりました。一方で機能が現時点ではわからなくても、何らかの機能をしていると仮定することもできます。したがって、ガラクタ、junk DNAと呼ぶのは言い過ぎで、実際、いろいろな機能が提唱されたり、確認されたりしてきています。 ショートタンデムリピート(STR)は、マイクロサテライトまたは単純配列リピートとも呼ばれています。連続的に繰り返される1~6 bpの短いDNA配列であり、最大100 ヌクレオチドの長さになります。原核生物とヒトを含む真核生物に広く見られますが、ヒトゲノムでは、約5%がこれに相当します。ヒトで最も一般的な STRは、A に富んだユニットです(A、AC、AAAN、AAN、および AG)。特にヒトで最も一般的なSTRはジヌクレオチド反復です。STRは、タンパク質をコードする遺伝子では1.5%、ほとんどのSTRは非コーディング領域、特に転写調節領域によく見られるとされます。 そのことから、STRは遺伝子発現に関係していると言われてきました。STRの長さの変化は遺伝子発現の変化と関連しており、統合失調症、がん、自閉症、クローン病などのいくつかの複雑な表現型に関係していると考えられています。 しかし、STR が転写に影響を与えるメカニズムは不明のままです。 そんななか、9月22日のScience誌に、スタンフォード大学を中心とするチームが、STRが転写因子(TF)に結合して真核生物の遺伝子発現を調整しているのではないか、という論文を発表しました[1]。
 
光の色で植物の遺伝子発現を操る光遺伝学
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光遺伝学(オプトジェネティクス)は、光を照射することで活性化されるタンパク質を特定の細胞に遺伝子導入といった遺伝学的な方法で作らせて、そのタンパク質の機能を光で制御する技術です。特に神経科学分野で動物の神経細胞の活動の制御に広く用いられてきています。 植物でも、栽培中に光を照射して、例えば病原菌の発生を防ぐための遺伝子の制御をしたり、ある枝だけに花を咲かせたり、発生などの基礎研究にも、光遺伝学は利用できそうです。 しかし、そもそも生存するために光が必要な植物に光遺伝学を使うのは容易ではないです。植物で光遺伝学を利用するには、以下のようなことができると理想的です。 (1)人工的な光刺激に特異的に応答。 (2)通常の植物成長条件、明暗サイクルのもとで使える。 (3)時間的、空間的に制御できる明確なオン状態とオフ状態を持つスイッチとして機能。 (4)植物内のシグナル伝達系とは無関係(オーソゴナル)。例えば、熱(ヒートショック)とは無関係。 (5)外部から供給される発色団(他の化学物質など)が不要。 これまで、このような目的の最近のツールとして、PULSEという光遺伝学システムが開発されています。 PULSE は、明暗サイクル中に赤色光で遺伝子発現オフからオン状態にすることができます。 9月21日、英国のケンブリッジ大学Sainsbury Laboratoryのチームは、植物で使える興味深い光遺伝学ツールHighlighterを開発し、PloS Biology誌に報告しています[1]。 Larsen, B. et al. (2023) Highlighter: An optogenetic system for high-resolution gene expression control in plants. PloS Biology. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3002303 Highlighterは、シアノバクテリア由来の光によるスイッチ可能なCcaS-CcaRシステムを利用しています。
 
「機能獲得」研究のランドスケープとコンテインメント
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機能獲得実験(Gain-of-function、GOF)や機能欠失実験(Loss-of-function、LOF)というと、分子遺伝学を学べば馴染み深い言葉です。一方で、聞き慣れない、難しそうな専門用語と感じる方も多いかもしれません。 GOFとは、一般的には、生物や遺伝子に本来とは違った機能を与える研究のことです。単に正常より過剰にタンパク質を(遺伝子発現量を強めて)作らせるというようなことも相当すると思います。 しかし、最近の一般報道などで見かける「GOF」とはウイルスなどの病原体に関するもので、その毒性や感染力を遺伝子操作で人工的に高める研究をさすことが多いです。 SARS-CoV-2ウイルスは、感染動物との接触を通じてヒトに広がったというのが通説になっています。一方で、研究者がGOF研究を行っていた実験室から何らかの理由で流出したのではないか、という推測もされています。この流出説は陰謀論だという意見もありますが、その真偽は判断を可能にする材料が存在しないというのが現実です。 このような背景もあり、世界中でどのようなGOF研究が行われているのか、その実情を把握し、規制する手段を検討する必要があります。しかし、GOF研究の実態はあまり知られていませんでした。 先ごろ、ワシントンDCにあるジョージタウン大学安全保障・新技術センター(Center for Security and Emerging Technology)の研究者が、人工知能ツールを使って病原体についての科学文献を調査することで、GOF研究がどこで、どのような頻度で行われているかを分析しました。
 
引用される合成生物学
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例年この時期に発表されるClarivateの「クラリベイト引用栄誉賞」2023年版が発表されました。クラリベイト引用栄誉賞は被引用回数が高い研究論文およびその著者を特定したうえで選ばれています。「クラリベイト引用栄誉賞」の生命科学関係は、ほとんどが合成生物学とも関係したトピックになっているように思われます。 なお、被引用回数だけで論文を語ることはできないとよく言われます。被引用回数だけで評価する賞を安易に報道する日本の報道機関やそれを評価基準として利用する日本の研究機関の姿勢には疑問を感じます。 まず、分野ごとの研究者や研究論文の多さ、引用の慣習にも依存するので、分野別の比較ができません。そもそも先進国で患者さんの多い病気と地方に限定された感染症や希少遺伝性疾患は、患者さんにとっては同じように治療したい病気であるはずです。それを被引用回数という形で研究価値を比較してしまうというのは、倫理的なのでしょうか? オリジナル論文より総説や総説的な要素の強い論文、方法論に関する論文は被引用回数が多くなります。誰もが読めない状態の論文とオープンアクセスの論文と比べた場合、オープンアクセスの方が引用されやすいと言われます。 ネガティブな引用というのもあるでしょう。地域コミュニティのバイアスによる被引用の連鎖というのが人口の多い国家からの研究では指摘されることがあります。お手軽な論文を多数発表する研究者が自分で自分の論文を引用するということによる歪みもあります。 更に、「引用されなくなったら本物だ」と言われるように、あまりに当たり前になってしまったことは引用されなくなります。 2023年「クラリベイト引用栄誉賞」について、詳しくは、clarivate.comでの発表をご覧ください。
 
系外惑星に生命の痕跡?
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NASAは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、太陽系外惑星に生命の痕跡を示す証拠を発見した可能性があるという発表をしました。 少なくとも地球上では生物だけが発生させるジメチルスルフィド(dimethyl sulfide、DMS)が検出されたかもしれないということです。 ただ、120光年離れた系外惑星での検出は確実ではないため、研究者らは、その存在を確認するにはさらなるデータと分析が必要だと注意しています。最近も、太陽系の金星の雲の中で生物によって生成される可能性のあるホスフィン(phosphine)が存在していると2020年になされた主張について、疑義がでているということもあります。 今回のJWSTによる観測では、しし座にある8.6倍の質量を持つ系外惑星K2-18bに、メタンや二酸化炭素などの炭素含有分子の存在が明らかになりました。メタンや二酸化炭素の存在は確実で、NASAの発表も「K2-18b の大気中でメタンと二酸化炭素を発見」となっています。 このK2-18bは、地球と海王星の中間の大きさであり、地球のような岩石惑星とは異なります。この種の惑星は、私たちの太陽系には存在しませんが、銀河系においては、これまでに知られている最も一般的なタイプの系外惑星だとされています。 しかし、特に注目されているのは、この系外惑星でDMSが検出されたかもしれないという点です。
 
ムール貝にヒントを得た超強力接着剤
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身の回りには、携帯電話、コンピューター、自動車、家具、靴、包装、そして壁など接着剤があふれています。現在の接着剤は安価で高性能ですが、環境への負荷も大きいとされます。例えば、廃棄される接着剤は、化学的に分解されず、機械的に粉砕され、海洋のマイクロプラスチック問題の一因となっています。 典型的なエポキシ接着剤は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの多官能性エポキシ含有化合物と、トリエチレンテトラミンなどのポリアミンとの反応が基本になっています。 一方、天然では、ムール貝(ムラサキイガイ、mussel)が、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を含むタンパク質で岩に強力に接着することが知られています。 DOPAは、ムール貝の接着に関わるタンパク質が合成された後の翻訳後修飾でできます(下図)。DOPA基により、このタンパク質は水素結合や金属キレート形成などの相互作用を介して表面に結合します。さらに、これらのペンダント型ジヒドロキシフェニル(つまりカテコール)基の酸化は、凝集性相互作用をもたらす架橋を作ります。 9月13日付けのNature誌で、Purdue Universityのグループが、この化学構造にヒントを得た持続可能な、つまり天然由来で天然で処理できる新しいタイプの強力な接着剤ができたことを報告しています [1]。 Westerman, C.R. et al. (2023) Sustainably sourced components to generate high-strength adhesives. Nature 621, 306–311 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06335-7 その材料は、エポキシ化大豆オイル、リンゴ酸、タンニン酸の3つです(下図b)。エポキシ化大豆オイルは、大豆オイルと酸、過酸化水素との単純な反応で得ることができ、すでに大規模かつ低コストで入手可能であり、例えばポリ塩化ビニルの可塑化などに使用されているそうです。
 
キチンを食べると起こること
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キチン (chitin) は直鎖型の多糖、ポリ-β1-4-N-アセチルグルコサミンです。自然界では、セルロースに次いで2番目に多い多糖類と言われます。昆虫などの節足動物や甲殻類の外骨格、軟体動物、頭足類、カビ・キノコなど真菌類の細胞壁などの主な成分となっています。 日本では、エビ、カニ、イカ、タコ、キノコなどが日常的な食品です。また、昆虫食も伝統的な食ですし、最近では食料問題の解決につながる食として注目されています。一方でキチンは、II型アレルギーといった免疫反応を引き起こすことも知られてきました。 9月7日付けのSCIENCE誌に、米国セントルイスのワシントン大学メディカルスクールのグループが、キチン摂取による胃の自然免疫活性化による適応について報告しています[1]。 Kim, D.H. (2023) A type 2 immune circuit in the stomach controls mammalian adaptation to dietary chitin. Science. 381:1092-1098. doi: 10.1126/science.add5649. マウスがキチンを摂取すると、胃が膨らみ始め、胃の内壁にあるタフト細胞および2型自然リンパ球(ILC2)によるサイトカイン産生を引き起こします。そして、キチン消化に必要なキチン分解酵素である酸性哺乳類キチナーゼ(acidic mammalian chitinase, AMCase)が酵素原主細胞(zymogenic chief cell)によって作られます。これは、キチンを持つ寄生虫の侵入に対応するための適応ではないか、と考えられます。つまり、マウスによるキチンの消化は免疫反応、特に腸内寄生虫のような寄生虫に対する免疫反応に依存しているようです。
 
電気的にDNAを検出する
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特定の核酸の配列を迅速かつ正確に検出することは、感染症、がんなどの診断・治療に重要です。核酸配列の検出は、人間などによる観察や機械学習による画像診断などとは違って、一般的にブラックボックスがありません。「ブラックボックスのない検査」の開発と改良の重要性はますます高まっています。 現在、核酸の検出は、蛍光または発色をもとにした方法が一般的です。今回は、最近、発表された電気的に検出する2つの方法について紹介したいと思います。 📌DNAナノボール 最初は、9月6日に、スタンフォード大学、ラトガーズ大学、カロリンスカ研究所のグループが、Science Advances誌に発表した研究です[1]。核酸を、DNAナノボールを用いることで電気的に検出できるとしています。 Tayyab, M. et al. (2023) Digital assay for rapid electronic quantification of clinical pathogens using DNA nanoballs. Sci Adv. 9:eadi4997. doi: 10.1126/sciadv.adi4997. この方法では、コンパクション・オリゴヌクレオチドを用いて、ナノボール上で標的を増幅するというループ媒介等温増幅(LAMP)を行います。LAMPアンプリコンに存在する共通領域に相補的なオリゴヌクレオチド(コンパクション・オリゴヌクレオチドと呼ぶ)を使用することで、DNAをナノボールに「ホッチキス留め」することができるというアイデアです。この反応は一つのチューブ中で行うことができます。 次に、キャピラリー中の流れを利用して、こうしてできたDNAナノボールをマイクロ流体インピーダンスサイトメーターに通すことにより、個々のナノボールの動きを、インピーダンスの変化によって検出しています。
 
大気汚染と抗生物質耐性の関係
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9月10日の米国の公共ラジオ放送NPRで取り上げられていた話題です。 https://www.npr.org/2023/09/10/1198675569/air-pollution-could-be-making-antibiotic-resistance-worse 薬剤耐性菌の問題は世界的な問題で、毎年、世界中で数百万人の死者を出していると言われています。国連によると、薬剤耐性菌関連の年間死者数は2050年までに1000万人に達する可能性があるとされます。 一方、粒子状物質(particulate matter, PM)2.5による大気汚染も世界中で深刻になっています。PM2.5により、農業、水産養殖、廃水処理、病院などから環境中にもれる抗菌薬耐性細菌が運ばれる可能性があると長い間疑われてきました。 8月のLancet Planet Health誌に、薬剤耐性(Antimicrobial Resistance, AMR)と大気汚染の間に相関関係があるのではないか、という報告が中国の浙江大学と英国のケンブリッジ大学のチームにより発表されました[1]。 https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(23)00135-3/fulltext Zhou, Z. et al. (2023) Association between particulate matter (PM)2·5 air pollution and clinical antibiotic resistance: a global analysis. Lancet Planet Health. 7:e649-e659. doi: 10.1016/S2542-5196(23)00135-3. チームは、複数の潜在的予測因子(大気汚染、抗生物質の使用、衛生サービス、経済、医療費、人口、教育、気候、年、地域)に関するデータを2000年から2018年まで116カ国で収集し、単変量解析および多変量解析によってPM2.5が抗生物質耐性に及ぼす影響を推定しました。その結果、粒子状大気汚染と臨床的抗生物質耐性の報告との間に強い関連性があると結論づけています。
 
合成ヒト胚モデルの利用法
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イスラエル・ワイツマン科学研究所のJacob Hanna博士の研究チームが、実験室で培養した幹細胞からヒト胚のモデルを作成し、子宮の外で14日目まで成長させることに成功しました。この合成胚モデルは、胎盤、卵黄嚢、絨毛膜嚢、さらに他の外部組織を含む、この段階に特徴的なすべての構造を持っているということです。 9月7日、BBCの英語ニュースを聴いていたら、トップで報道していたニュースですが、日本語ニュースにもなっています。 Oldak, B. et al. (2023) Complete human day 14 post-implantation embryo models from naïve ES cells. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-023-06604-5 実は、この論文、去年の秋には、bioRxivにプレプリントとして掲示されていましたので、査読後、雑誌掲載で改めてニュースになったという感じです。タイトルや文章が少し変わっていますが、Nature誌の場合、編集過程で変更されることがしばしばあります。 既にマウスを使っての応用研究は実施されており、こういう記事のソースにもなっています。 幹細胞から人工胚、「最高の臓器プリンター」目指すイスラエル企業 RenewalBioというのが、このイスラエル企業です。 また、別のグループも昨年、同様な学会発表を行っており、その報道がありました。 BBCの報道では、このような合成胚モデルの利用法について、以下のように説明しています。
 
綿花の細胞農業の将来性
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ワタはアオイ科ワタ属(Gossypium spp.)の多年草の総称です。英語ですとCottonですが、日本語ですと、ワタ、綿花(めんか)、木綿(もめん)、綿といった言い方の使い分けがあるようです。 現在、人類が使用する家庭用繊維製品の7割は、ポリエステルやナイロンなどの石油由来の素材で作られています。木綿は合成繊維よりも二酸化炭素排出量が低いにもかかわらず、利用されている繊維に占める割合は2割ほどです。 中国、インド、米国がワタのトップ生産国です。栽培には、多量の水が必要です。しかし、気候変動、つまり気温の上昇と干ばつで、灌漑用の淡水が減少していて、世界のワタ生産に混乱をもたらしていると言われます。少ない水、肥料、殺虫剤でも生育できる新しいワタ品種の作出が行われています。 9月4日付けのsynbiobetaで、バイオリアクターで育つワタ細胞を利用する細胞農業の可能性について紹介されています。 ここで話題になっているのは、Galyという会社です。Galyは、2019年、Luciano BuenoとPaula Elblによって、米国西海岸のサンフランシスコで設立された会社ですが、現在は東海岸のボストンに基盤があります。 これまで、AmazonやGoogleに投資を行ってきたベンチャーキャピタリストJohn Doerr、OpenAIのCEOであるSam Altman、Tony Fadell(AppleのiPod部門の元副社長)などの投資家から3,200万ドル以上の資金を調達することに成功しているといいます。
 
【合成生物学ナビ】あなたの体の中にある原子の総数は?
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「あなたの体の中にある原子の数は?」 【合成生物学ナビ】は、合成生物学の原点に立ち返って、合成生物学の基礎を確認するためのものです。時々、挿入していく予定です。 定量生物学とフェルミ推定 合成生物学の展開上、「定量生物学」は、計量法と理論モデリングの組み合わせで生物系の設計原理や機能法則を明らかにするとともに、生物工学的な効率を検討する上で、重要な視点です。 フェルミ推定は、実際に調査するのが難しく、感覚的に予測することが難しい数値を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推定することです。「あなたの体の中にある原子の数は?」というような推定がそんな例です。生物学、環境問題の理解、更には企業経営など、さまざまな局面で、しばしば体験することです。 今回は、イスラエル・ワイツマン科学研究所のRon Milo博士による「Biology and Sustainability by the Numbers(数字で見る生物学と持続可能性)」という授業(講義)を紹介します。 シラバス 過去数十年の間に、生物学や環境学は記述的で定性的な学問から、より分析的でデータ主導の定量的な分野へと急速に発展してきた。私たちを取り巻く最も基本的なプロセスを記述する数値を収集する能力は著しく向上し、これらのデータに基づく単純な計算は、重要な洞察を提供し、科学的な直感を豊かにすることができる。    本コースでは、生物学や持続可能性の分野から、重要な数値を用いた裏返し計算(いわゆるフェルミ推定)の実践と、研究への有用な応用を学ぶことを目的とする。結果の大きさを決定する主な要因を特定する方法、簡略化を許可するタイミング、効率的な計算方法、よくある落とし穴を避ける方法などを学ぶ。      このコースは、基本的な(しかししばしば驚くような)問題の多くの例を通して、定量的細胞生物学と持続可能性の様々な側面について毎週講義を行う構成となっている。 Ron Milo博士は、BioNumbersというデータベースを作製、維持しています。 このBioNumbersは、2007年にハーバード大学のシステム生物学教室で、Ron Milo、Paul Jorgensen、Mike Springerの3人が共同研究を行っていた時に始まったもので、生物学ででてくる様々な「数字」を収集しているものです。 例えば、「Brain」については、こんなデータが集まっています。
 
匂いの予測と嗅覚のデジタル化
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目では波長が色に、耳では周波数が音の高さとして知覚されます。その結果、視覚や聴覚のデジタル化は容易で、テレビを楽しむことができます。ところが、嗅覚はそういう形では扱うことができていません。 8月31日付けのScience誌に、嗅覚のデジタル化を狙った研究を、Google Researchからスピンオフした会社であるOsmoを中心とした研究チームが発表しています。Osmoはマサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置いていて、様々な日用品に利用できる新しい「匂い分子」の設計を目指しています。 Lee, B. K. et al. (2023) A principal odor map unifies diverse tasks in olfactory perception. Science. 381:999-1006. doi: 10.1126/science.ade4401. この研究は、1年ほど前に、bioRxivに投稿されています。 匂いの元になる物質(匂い分子)は、数十万種類あるそうです。匂い分子の構造とどんな匂いと感じるかについての関係は複雑です。つまり、分子の標準的な化学情報(官能基数、物理的性質など)では、その分子がどのような匂いであるのかは予測できません。 研究グループは、「草っぽい」「フルーツっぽい」などの55個の匂いを説明する単語を1つ以上割り当てることができる、人工知能 (AI) システムを作りました。そしてそのAIに、約5,000種類の匂い分子と匂いの説明を機械学習させました。利用したのは、Good ScentsとLeffingwellというデータベースです。
 

by 山形方人(Masahito Yamagata)