バックナンバー2024年2月
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くせになる独特の風味と香りのブルーチーズに生えた青緑色のカビに抵抗感のある方もおられるかもしれません。 ロックフォールチーズ(Roquefort)はもともとフランスのブルーチーズということですが、アオカビ属(ペニシリウム属)のPenicillium roquefortiは、世界中でブルーチーズの製造に使用されている真菌です。ブルーチーズは、この真菌の増殖によって形成される色素胞子によって青緑色になっています。 1月8日のnpj Science of Food誌に、英国ノッティンガム大学のチームがこの色が生じる生合成経路を解明し、風味そのままの白いチーズを作ることに成功しています。 Cleere, M.M. et al. (2024) New colours for old in the blue-cheese fungus Penicillium roqueforti. npj Sci Food 8, 3. https://doi.org/10.1038/s41538-023-00244-9
バックナンバー2024年1月
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アルツハイマー病の原因はまだ完全には解明されていません。しかし、長い期間をかけて脳の中で生じる、複雑な一連の事象によって発症することが明らかになってきており、遺伝、環境および生活習慣などの複数の因子が絡み合って発症すると考えられています。一般的には、アルツハイマー病全体の9割に相当し高齢者に発症する「遅発性散発性」と、若年(65歳以前)に発症する「早期発症型」、特にその一部で遺伝要因が考えられてきた「家族性」のものがあります。 1月29日、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのチームが、幼児期にヒト死体下垂体由来の成長ホルモン(cadaveric pituitary-derived growth hormone)を投与されたことのある若年性認知症の一部の患者にアルツハイマー病の特徴であるアミロイドベータ斑が脳内で観察されたことをNature Medicine誌に正式に報告しています。
バックナンバー2023年12月
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2023年の通常記事は今年最後ということで、2023年の合成生物学の概況を手軽に知ることができる最新の記事2つを紹介したいと思います。英文ですが、短い文章で、合成生物学の概況を知ることができます。 🔴大きな問題と小さな解決策: 合成生物学がより強い未来を築く方法 最初のForbesの記事は、IDTというDNA合成大手企業の社長であるDemaris Mills氏が書いている文章です。 🔴合成生物学: 自然のツール、再設計 こちらのTechnologynetworksの記事は、Kerry Taylor-Smith氏というサイエンスライターが書いている文章です。 この文章は、邦訳もされている「合成生物学」(ニュートン出版)の著者である Jamie A Davies氏へのインタビューが主なものになっています。植物の部分は、Alister Mccormick氏の話が掲載されています。
バックナンバー2023年11月
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世界3大感染症(マラリア、HIV、結核)の中でも最も多い世界のマラリア患者数は年間2億4,700万人(2021年)と推定され、毎年60万人以上の死亡者をだしています。そのほとんどは、アフリカのサハラ以南の幼い子供たちです。特に、マラリア原虫が抗マラリア薬などの医療介入に対する耐性を急速に進化させている現状が問題になっています。 ゲノムの監視 (寄生虫DNAの変化を継続的に監視) は、寄生虫の薬剤耐性の背景の理解に極めて重要です。 これまで、このような監視は、マラリアが流行していない先進国の研究所で行われてきました。11月23日のNature Microbiology誌に、英国のサンガー研究所、アフリカのガーナ大学のチームが、現地のポケットサイズのDNA シーケンサーを用いて、ガーナのマラリア薬剤耐性をリアルタイムで追跡できることを報告しています[1]。
バックナンバー2023年10月
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絶滅したフクロオオカミ(タスマニアンタイガー)、ケナガマンモス、ドードーを蘇らせようとしている米国のバイオテクノロジー「De-extinction」企業であるColossal Biosciencesは、George ChurchとBen Lammによって2021年設立された企業です。今度は、オーストラリアのVictorian Grassland Earless Dragon(Tympanocryptis pinguicolla)を救うプロジェクトを支援するそうです。 テキサスに本拠を置くColossal Biosciencesは、以前からマンモスの復活に取り組んできましたが、2022年、タスマニアンタイガーとしても知られる有袋類のフクロオオカミを復活させるための数百万ドル規模の入札でメルボルン大学と提携したと発表しました。今年になって、絶滅した鳥ドードーの復活に挑戦することも発表しています。 このたび発表したのは、より現実的な絶滅の危機に瀕しているVictorian Grassland Earless Dragon(Tympanocryptis pinguicolla)の対策です。
バックナンバー2023年9月
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スムシって何?と思った方も多いと思います。「スムシ」でネット検索すると、養蜂サイトがたくさんでてきます。スムシは、ミツバチの巣を食い荒らす害虫として知られますが、メイガ上科のガであるハチノスツヅリガ Galleria mellonellaの幼虫のことです。英語では、Waxworm(Wax worm)と呼ばれています。スムシは、プラスチックを食べることで知られています。 プラスチックポリマーであるポリエチレン (PE)、ポリプロピレン (PP)、ポリスチレン (PS)、およびポリ塩化ビニル (PVC) は、世界のプラスチック総生産量の70%を占めています。スムシの唾液の中にプラスチック、特にPEを分解する酵素があることが最近わかってきました。
バックナンバー2023年8月
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Ginkgo Bioworks(DNA (NYSE))は、Jason KellyらMITの5人の科学者によって2008年に設立されたボストンのバイオテク企業。2021年9月、ニューヨーク証券取引所に上場しています。合成生物学分野では、最もよく知られている企業の一つです。 8月29日、Ginkgo BioworksとGoogle Cloudが、 5 年間にわたるクラウドと人工知能技術のコラボレーションを発表しました。この戦略的なパートナーシップにより、Ginkgo Bioworksは生物学とバイオセキュリティのためのAIを活用したツールの開発を行うとしています。 8月31日まで、サンフランシスコで開催中のGoogle Cloud Nextでも内容の発表があるとされています。また10月3日には、Ginkgoによる投資家向けの説明会が開催されるようです。 以下、これまでの報道発表からポイントをまとめてみます。
バックナンバー2023年7月
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合成生物学と人工知能の連携は、これからの大きなトレンドであることは確かです。本トピック「合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」でも、そういう例をいくつか紹介してきています。 2022年秋に設立されたIntegrated Biosciences社は、合成生物学と人工知能の連携を狙うバイオテクノロジー企業で、次世代治療薬のための細胞ストレス応答を対象にしています。サンフランシスコ・ベイエリアに拠点があります。 その創業者は、Felix WongとMaxwell Wilsonです。 Felix Wongは、2023年度のForbes 30 under 30のHealthcare部門にも選ばれています。 このIntegrated Biosciences社の研究は、合成生物学と人工知能の連携で抗老化作用のある全く新しい化学構造を持つ新規物質を見つけることです。 Integrated Biosciences社は、最近、2つの興味深い論文を発表しています。この2つの論文を見ることで、この会社が行おうとしている合成生物学と人工知能の利用とは何かということが理解できます。 Wong, F. et al. (2023) Discovering small-molecule senolytics with deep neural networks. Nat Aging 3, 734–750 https://doi.org/10.1038/s43587-023-00415-z Batjargal, T. et al. (2023) Optogenetic control of the integrated stress response reveals proportional encoding and the stress memory landscape, Cell Systems https://doi.org/10.1016/j.cels.2023.06.001 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.05.24.493309v1 マウスでは、老化細胞(分裂しない細胞)を選択的に除去(senolysis)することで健康寿命を延ばしたり、化学療法の効果を高めることができることが知られています。「老化細胞を溶かす薬」は老化細胞を選択的に除去できるので有用であるはずです。 老化細胞を標的としたこのような方法は、Senolyticsと言われています。しかし、その臨床応用は、生物学的な知見が乏しく、副作用もあることから、臨床応用には限界がありました。